強い意見、柔軟な態度
ETC原則 と Shearing Layers
ソフトウェア・エンジニアに長く読み継がれる “Pragmatic Programmer”(邦訳『達人プログラマー』)は、良いデザインのエッセンスについてこう述べる。
「良いデザインは、悪いデザインより変更しやすい」
“Good Design Is Easier to Change Than Bad Design”
これを「ETC(Easier to Change)原則」と呼ぶ。
我々の知る限り、すべてのデザイン原則は ETC の特殊ケースにすぎない。
As far as we can tell, every design principle out there is a special case of ETC.“Pragamtic Programmer” p.28 (拙訳)

ソフトウェア開発では最初から全てを把握することはできず、そこには作りながら、使われながら、変わっていくことが沢山ある。そのため変化は不可避であり、その変えやすさが重要ということだ。
これまで少しばかりそういったことに関わってきた経験からも、納得のいく捉え方で、それがシンプルなフレーズでまとめられていて良いなと思う。
それはソフトウェアだけでなく、人にも適用できるだろうか。
どの段階や状況においても、完璧な人間などいない。なので、いろいろな経験やフィードバックをもとに変化できることが大切では?それを素直さと言ったりするのかもしれない。
しかし… ただただ流されるだけでも、ぐにゃぐにゃしすぎても困るとも思う。そこには何か、軸というか、信念とか価値観、みたいなものが求められるのではないか。
また、ETC原則は「ソフト(柔軟)ウェア」だから成り立つのではないか?
例えば建築。家やビルといった建物は、そうそう変えられないではないか。
そう思って調べてみると「Shearing Layers」という考え方があることを知った。建築家のフランク・ダフィーが提唱し、それをスチュアート・ブランド(Whole Earth Catalog の創刊者として知られる)が拡張したものだ。
ブランドは、建物を6つの層(6S)に分類した。
Site(敷地) 地形、土地。ほぼ永久に変わらない
Structure(構造) 基礎、柱、梁など建物の骨組み。30~300年
Skin(外装) 外壁や屋根。20~30年
Services(サービス) 配線、配管、空調。7~15年
Space Plan(空間計画) 内壁やドアなどのレイアウト。3~30年
Stuff(モノ) 家具、家電、装飾品など。日々変化する
各層は、独立して変化する。そのため、変化の速い層が、遅い層を邪魔しないように設計することが重要だ。
例えば、水道管(Services)を柱(Structure)に埋め込むと、修理のたびに構造を壊さなければならない。これらを分離して設計することで、長寿命で適応性の高い建物を作ることができる。
すべてのものが同じ速さで変化するわけではないので、それを意識してデザインしよう、ということだ。
(ちなみにブランドは、これを社会に拡張した「Pace Layers」というフレームワークも提唱している。「Nature - Culture - Governance - Infrastructure - Commerce - Fashion/Art」というもの。速い層が学び、遅い層が覚える)
人間も、いろいろな層が重なりあっている存在だろう。
変えられない・変えづらいものもあれば、刻々と変化するものもある。生物的基盤があり、信念や性格もあって、日々の発言や振る舞いがある。それぞれの流れの違いを意識すると、より適した対応ができるように思う。
「Strong opinions, weakly held(強い意見を、固執せずに持つ)」という言葉を聞いたことがある。もとは未来予測学者のポール・サフォーによるものだそうだ。
何かしら寄り掛かるものがないと、先へ進めないし、ただただ流されてしまう。
しかし一方で、それが絶対だと妄信してしまうことの危うさ(そして勿体無さ)もあるだろう。
それらをうまく舵取りすることが肝要―とは分かっていても、実際はなかなか難しいものだ。アヒルちゃんに話しかけられるくらいの余裕は持ちたいですね。

