長い時間を経ての短い言葉
これからは情報幾何学だ(?)
長い付き合いの友人がいる。林部さん(shirayu)と言う。
出会ってからもう14年くらいになる。奈良の山奥で研究していたときの先輩だ。それから今に至るまで、変わらず仲良くしてもらっている。
色んなことがあった。一緒にシリコンバレーも訪れたし、二人とも東京に暮らしていた頃はバイクに乗せてもらって方々へ遊びに行ったものだ。それから彼は西へ、私は北へ移り住んだ。
そんな彼と先日、学会で再会した。我々の専門である「自然言語処理」という、コンピューターで人間の言葉を扱う分野のものだ。
早々に会場を抜け出して、二人で餃子を食べた(宇都宮で開催されていたのだ)。
大学やスタートアップ、企業研究所などを渡り歩いた彼は、今や自由人(?)として、世界旅行や、仕事ではない研究に邁進している。
最近は「情報幾何学とAIの統一視点」にハマっているそうだ。なにそれ?と思ったが、解説してもらったら、確かにとても面白かった。20年後の教科書には普通に載ってる話じゃないかな、と言われた。
餃子の後も会場には戻らず、二人でコーヒーを飲みながらうだうだと喋っていた。
彼はこの学会イベントのために、非公式のタイムテーブルWebアプリを作成していた。とても便利で、来場した人の多くがお世話になっただろう。
Claude Code に React を書かせながら作ったそうだ。会期中もアップデートを重ね、新機能が追加されていった。
そんなアプリで、「現在時刻に合わせてタイムテーブルを表示する」というような機能を開発していたときのこと。それがなぜか、想定通りに動作しない。
AIエージェントはせっせと調査を続けるが、終わらない。解決しない。
「なんでやったと思う?」と、彼が私に尋ねる(彼は関西人なのだ)。
私は数秒、考える。
「あっ、タイムゾーンちゃいますか?」(私も関西人だ)
「せやねん」
古典的な問題だ。プログラムの時間帯が、ロケーションに合わせて適切に設定されていないことで不具合が生じる。大抵はデフォルトの協定世界時(UTC)になっていて、それを日本であれば時差を考慮した設定(日本標準時, JST = UTC+9)にする必要があるのだ。先人たちの例に漏れず、私も過去にハマったことがある。彼も同様だったようだ。
「それで Claude にたった4文字、 “UTC?” って伝えたら、すぐに解決したわ」
なんというあっけない幕切れ。
これが、なにか面白いというか、味わい深いなあと記憶に残っていた。別に「AIエージェントのコンテキストが〜」とか、高度な技術の議論をしたいわけではなくて、そういう岡目八目なことって人間でもあるよなあ、と。
彼には度々、相談に乗ってもらってきた。
長い付き合いだ。ちょっと話せば、はいはい、とすぐに分かってくれて、的確なコメントをくれる。
昨年に彼と会ったとき。私が悩みを伝えると、彼は「君やったらこういうのが向いてるんちゃうかな〜」と、何気なくサラッと言った。少し予想外の回答だった。しかしその時の私は「どうですかねえ」と、また違った方向へ進んだ。
それが今年になってみると。結果として「あ〜、これはちゃうかったわ… あのとき言われた通りやったわ〜」ということが、ありありと、否定しようもなく見えてきたのだった。自分のことを自分が一番分かってない。ビックリだ。
文脈さえ共有できていれば、言葉はたった数文字でも足りるのだろう。けれど、受け手に聞く耳が、素直さがなければ、それは届かない。言語って、コミュニケーションってほんと面白いものだなあと思う。
余談。
これを書いていて思い出したのだが、彼とは実は、出会う前から繋がりがあった。彼が大学院の入試情報を収集してWebサイトにまとめてくれていて、私は入る前にそれを参考にしていたのだ。
私も入試後に彼へ情報を共有した。メールを掘り返してみると、当時こんなことを書いて送っていた。懐かしい。2011年7月。
お忙しい中、後進の為に情報をまとめてくださって、大変感謝しております。
私は、林部さんが発表された「"意味"を計算機で扱う一方法」をオンラインで観て、意味解析に興味を持ち、NAISTへの進学を決めました。
門外の者に自然言語処理の難しさと面白さを教えていただき、ありがとうございます。
もし無事に合格し、自然言語処理講座へ入学できた際には、何とぞ宜しくお願い致します。
それからあっという間の15年。自然言語処理がこんなに取り沙汰されることになるなんて、想像できなかったですねえ。2041年頃は、情報幾何学の時代でしょうか。


