続いてはラジオネームきくらげ大好きっ子さんからのお便りです
「好きな食べ物は?」と尋ねるのは、ベタだが意外と奥深い。その背景や語り方から、その人のことをよりよく知る機会になる。「人に奢ってもらう焼肉」と答える人がいて、上手いこと言うなぁと思った。
「嫌いな食べ物は?」と聞くのも面白い。身近な人でも、知らない一面に触れることが想像以上にたくさんある。
そういえば長年の友人である hikaru さんが昨年、私の暮らしていた北海道の小さな町にわざわざ来てくれたとき、地物の椎茸を出したら「それだけは食べない…」と言っていて、そうだったのか〜とそのとき始めて知った。
「好きな食べ物は?」と聞かれたら、私は「きくらげ」と答えている。
20代の頃、東南アジアで暮らしたことがある。そのとき家の近くの素食料理屋さんにあった「きくらげのオイスターソース炒め(蚝油木耳 háo yóu mù ěr)」が、自分の舌に合ったのか無性に美味しく、毎日のように通って食べていた。それ以来、きくらげが好きだ。
しかし大抵、相手の反応は「え、きくらげ…??」という具合で、あまり同好の士に出会うことはない。
そんなわけだから、日々いろいろな情報に触れていて、「きくらげが好き」という人がいると注目してしまうし、備忘のためにメモも取る。
わたしは将棋について全く詳しくないが、棋士の伊藤匠さんはきくらげが好きらしい。他には、歌手・お笑いタレントのタブレット純さんも。女優の小林きな子さんだって。日がな、インターネットの大海でこういうことにばかり目がいってしまい、代わりに大事なことを見落としていたりする。
ちなみに棋士の藤井聡太さんはきのこが苦手で、五目焼きそばもきくらげ抜きで注文していたらしい。
きくらげのほかに、アスパラガスも好きだ。
不思議なご縁から札幌に移り住んだ直後、道の駅みたいなところで売っていたのを何気なく買って食べたら、これがとんでもなく美味しくて、これまでの人生で私が食べてきたのはなんだったんだ…!と衝撃を受けた。
アスパラは収穫後、約1日で鮮度が落ちるほど非常に劣化が早い野菜らしい。東京の都心に暮らす友人曰く、高級なお店には、北海道の朝採れアスパラがその日のうちに空輸で届けられているそうだ。
アスパラの旬はちょうど今頃、春から初夏にかけて。
同僚の実家が道北(北海道北部)のアスパラガス農家で、収穫の時期に連れていってもらったことがある。
そのときに訪れたのがきっかけで、私はその後、道北へ移り住むことになった。人生いろんなことがあるものである。
ちなみにアスパラ農家さん曰く、茹でるのが一番オススメの食べ方だとのこと。
「きくらげとアスパラが好き」と言ったら、「どっちも料理じゃなくて材料じゃん」とつっこまれたことがある。それは確かにそうだ。
そもそも料理とはなんだろうか?世界各地、それぞれに色とりどりの食材があり、それらを使った様々な調理法が存在する。
玉村豊男『料理の四面体』という本は、その多様な料理を抽象的に考える。これがまあ、本当に、めっぽう面白い。目から鱗がボロボロと落ちて台所を汚してしまう。
まず、著者が色々な国を訪れたり、料理してきた経験を踏まえて、紀行のような読み物として魅力的だ。その上で、「物事を抽象的に捉える」という行いをまざまざと見せつけてくれる。いわく、全ての料理は火・水・油・空気という4つの要素からなる!刺身はサラダだ!ローストビーフとアジの干物は同一線上にある…!──その斬新な切り口にシビれる。鮮やかさにため息がこぼれる。こういうものを書きたいなぁと憧れる。
ここでは内容の詳細に立ち入らないが、興味を持った方はぜひ、手に取ってご自身で読んでみてほしい。レンガみたいな大著『独学大全』で知られる読書猿さんのブログ記事も参考になるだろう。
サラダからはじめよ/新入生のための一人飯ハック 読書猿Classic: between / beyond readers
大好きな一冊だが、きくらげのようにこれも、その魅力がまだあまり知られていないらしい。
なので、きくらげのときと同じく、この本について語っている人がいたら注目してしまう。
例えば予備校講師の林修先生は以前、テレビ番組でこの本を取り上げたそうだ。それだけで勝手ながら親近感を少し抱いてしまう。単純だが、そんなものだろう。
最近、 SmartHR というスタートアップ企業について調べていたら、現 CEO の芹澤雅人さんが、ある記事でこの本を推薦していた。経営とかエンジニアリングといった文脈で読んでいたので急に出てきてビックリしたし、なんだか嬉しい気持ちになった。
SmartHR 芹澤雅人の3冊 エンジニア必読“運動本”と「料理で学ぶモデリング」 | 日経BOOKプラス
このモデリングは、まさにソフトウェアエンジニアリングの典型的な手法なんですよ。僕はこの本を料理の本ではなくて、モデリングの本だと思っています。料理は極めて日常的なものですが、視点を変えるとエンジニアリングと通じるものが見えてくる。料理において「これを抽象化するとどうなるか?」「そのモデルをほかに転用して具体化するとどうなるか?」といった思考法が鮮やかに描かれていて、とても好きな一冊です。
「良い悪い」ではなくて「好き嫌い」。それは人それぞれで、正解はなく、だからこそ人となりが出て、味わい深い。そういうのを聞くのが私は大好きだ。


